2024/09/11 (WED)

学校給食の問題に取り組んだ人びとの記録—「埼玉学校給食を考える会」資料について

立教大学共生社会研究センター 平野 泉(アーキビスト)

「埼玉学校給食を考える会」資料とその概要

R20「埼玉学校給食を考える会」資料。全体でファイルボックス4箱分。

いよいよ9月。夏休みが終わるこの時期、何らかの理由で学校に行くのをつらく感じる子どもさんたちへの様々な呼びかけを目にします。いっぽう、夏休みの始まるころには、学校給食が食べられない夏休みの間、家計の苦しい家庭の子どもさんたちが十分に食事をとれるよう尽力するフードバンクや子ども食堂からの発信が目につきました。

そんな今から40年以上前、80年代はじめには、プラスチックの容器から滲出する化学物質など、学校給食の安全性をめぐる問題がクローズアップされていました。

1980年6月1日、埼玉県西部地区消費者団体懇談会の「学校給食」分科会に参加した人たちが、学校給食がかかえる様々な問題について継続的に協議する場として「埼玉西部地区学校給食を考える会」を立ち上げます。この会は、個人でも団体でも参加できる会として地域を超えてつながりながら、情報交換、研究?調査、自治体への要望など様々な活動を行いました。1986年度には「西部地区」をはずして「埼玉学校給食を考える会」に名前を変え、学校給食現場にとどまらず、合成洗剤や食品添加物、農薬など、食の安全性にかかわる課題に幅広く取り組みました。

その活動の貴重な資料を、会の事務局の方からのお申し出により2021年11月に受贈し、このたび整理を終えて、どなたでもご利用いただける状態になりました。段ボール1箱分(整理終了後はA4ファイルボックス4箱分)とコンパクトな中に重要資料だけが含まれていて、しかもご相談以前から事務局の方がしっかり整理し、寄贈時にリストもつけてくださっていたことから、センターでの作業は最低限ですみました。

受贈時には大きく3つのまとまりに分けられ、おおむね年代順に配列されていましたので、整理にあたってはその状態を「シリーズ」として保存することにしました。

シリーズ1 「活動記録」(1980年~2013年)
会が定期的に発行していた活動の記録。各年度内に発行された会報「学校給食」のほか、要望書などの資料が綴じ込まれています。
シリーズ2 「学習会資料?冊子等」(1983年~2018年)
様々なテーマごとに、学習会の内容や調査結果を対外的に伝えるために作成された冊子類のまとまりです。
シリーズ3 「参考資料」(1973年~2015年)
会が活動の中で入手し、参考資料として保存していた資料で、様々な団体の発行物があります。

それでは、少し具体的な資料をご紹介しましょう。

どんなことに取り組んでいたか?(1):時系列で追える「活動記録」

埼玉西部地区学校給食を考える会「1983年度活動記録」(R20-104、フォルダID02)

シリーズ1「活動記録」は、時系列にそって会の活動の詳細を知りたい方向けの資料です。

例えば、活動開始から3年後の1983年度の活動記録はこちら。ピンク色の表紙を読んでみると、83年の活動方針は以下のとおりです。

「?学校給食からプラスチック製品(ソフトめんの袋を含む)を追放すること
 ?学校給食における合理化(民間委託?センター化等)に反対すること
 ?学校給食の現場から合成洗剤を追放すること
  ?学校給食の内容を充実(完全無添加パンの実現?統一献立反対等)すること
  ?研修会?学習会等に積極的に取り組むこと。」

こんなにたくさんのことに取り組んでいたとは、ほんとうにすごいなあ、と思いながら開いてみると、この冊子には、活動の詳細がわかる会誌「学校給食」のほか、ソフトめんのポリ袋やプラスチック製食器に関する所沢市教育委員会や埼玉県知事あての要望書、県民部消費生活課との会見の記録などが綴じ込まれています。また、表紙に書かれているとおり、事務局は「持ち回り」。そのため、会誌もこの「活動記録」も、事務局担当者?グループの個性を反映してか、年度ごとに少しずつ雰囲気がちがいます。

どんなことに取り組んでいたか(2):気になるテーマを深堀り

ポリカーボネート製食器の使用中止をもとめてー1998年度埼玉学校給食を考える会の活動(R20-207、フォルダID18)

シリーズ2「学習会資料?冊子等」はテーマごとにまとめられた資料なので、特定のテーマに関心のある方にお勧めです。

例えばこちらの、ポリカーボネート食器に関する1999年の冊子。

表紙の裏、「はじめに」を読んでみると、埼玉県が1999年2月22日に「ISO14001」の認証を取得し、「環境優先?生活重視」を県政の基本理念としているーーーにもかかわらず、内分泌かく乱物質(環境ホルモン)の一種であるビスフェノールAを用いたポリカーボネート食器を学校給食に用いていることにたいする会員の怒りが表明されています。会員たちは、県と粘り強く交渉し、1998年6月には溶出試験の結果を公表させ、「埼玉県学校給食用食器検討委員会」設置にこぎつけました。委員会で独自調査結果に基づき、資料も添えて意見陳述も行いましたが、委員会の結論は、試験結果は「食品衛生法」の基準値以下だし、国も調査研究をしているからその結果を待つべし、ということでした。当然、「基準値以下なら安全というわけではない」と会は反論することになります。こうした運動の経過だけではなく、調査結果も収録されていて、たいへん充実した内容です。

このように市民として、また消費者として学校給食の問題に取り組み、資料を集め、現場を訪ね、行政と渡り合い、みんなで考え、議論して積み重ねてきた「埼玉学校給食を考える会」の貴重な記録を、ぜひさまざまな調査?研究にお役立てください。

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