2025/11/25 (TUE)

【資料紹介】VAWW-RAC旧蔵「NHK番組改変事件裁判」関連資料(R21)について

共生社会研究センターRA(リサーチ?アシスタント)
立教大学大学院文学研究科史学専攻博士前期課程 邑上葵

はじめまして。立教大学共生社会研究センターRA(リサーチ?アシスタント)の邑上葵です。
今回は、当センター所蔵の「VAWW-RAC旧蔵 『NHK番組改変事件裁判』関連資料」と、その整理方法についてご紹介いたします。

本資料群は前任RAの今井が資料整理を行っており、今回は利用者の方がより使いやすい状態で資料を提供するために再整理を行いました。
過去の整理の際に書かれたブログ記事もございますので、併せてご参照ください。

資料について

本資料群は、NHK番組改変事件裁判の裁判準備書面、証拠や尋問調書などの裁判記録であるシリーズ1、VAWW-NET Japanの集会関連資料?刊行物を含むシリーズ2、そしてNHK番組改変事件裁判に関する新聞?雑誌記事などを含むシリーズ3から構成されています。

VAWW-NET Japan(「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク)は、2000年10月東京で開催され、2001年10月にオランダのハーグで最終判決が出された「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」(以降、女性国際戦犯法廷と表記)を主催しました。
NHK裁判は、この女性国際戦犯法廷を取材して作成されたNHK教育テレビ番組「ETV2001?戦争をどう裁くか (2)—問われる戦時性暴力」(2001年1月30日放送)が、事前に伝えられていた内容から大きく変更されたことがきっかけとなって起こされた裁判でした。

東京地方裁判所で行われた第一審では、番組に改変が行われたことによるVAWW-NET Japanの「信頼利益(期待)の侵害」が問題とされていました。
しかし、東京高等裁判所で行われた第二審での審理が終わる頃に、番組が放送される前に政治家による介入が行われ、結果として番組の企画意図が損なわれたことが明らかになり、第一審で争われた内容政治介入に関する責任の有無が争点となりました。
本資料群には、特に第二審の時期に集められた政治介入に関連する内容の資料が多く含まれており、この点に関するVAWW-NET Japanの関心の高さが伺えます。

本資料群からは、戦後の日本社会がいかにして戦中に「慰安婦」として扱われた女性たちの存在や証言から目を背けてきたのかが非常によく見て取れます。VAWW-NET Japan は政治家の発言からオンライン掲示板の書き込みまで、NHK番組改変事件に関する多くの言説を収集しており、日本軍「慰安婦」制度から目を逸らしたい人々や、そもそも制度自体に問題はなかったとする人々がどのように歴史を認識しようと試みているのかを読み取ることができます。

資料整理について

私が引継ぎを受けた時点で本資料群は既にID付けや目録の作成などの整理が終わっている状況であり、残すところは利用に際してファイルから資料を移し替えたり、資料リストの調整を行ったりするなど、利用に供する直前の細かい作業が残るのみとなっておりました。
そのため本記事では、私が行った作業の中から、資料の移し替えと褪色資料の写真撮影の二つの作業について紹介させていただきます。
資料の移し替え
資料の多くはもともとクリアポケットやリングファイルに入った状態でした。
しかし、1つのファイルに閉じられている資料の量が多いため、ファイルを開閉する度に傷みの心配があったり、クリアポケットから取り出した後、元の状態に戻す動作が行いづらかったりしました。
また、ファイルに上下逆さまに閉じられていた資料があるなど、利用する際に不便な面があり、中性紙のボックスに移し替える作業を行いました。

クリアポケットやリングファイルから中性紙のボックスに移し替える過程では、まず一つの容器に入っている資料を、1cm前後の厚さごとに分けてフォルダに入れ、アイテムのIDとフォルダタイトル、1/nのように全体の内のどのくらいなのかなどの点をフォルダに書き込みます。
そして、いくつかのフォルダをまとめて1つのボックスに入れ、どのフォルダが入っているのか外から見ても分かるように、ボックスにIDを表記しました。
褪色資料の写真撮影

写真1 退色した感熱紙

裁判当時のプリンタやFAX等では、印刷用に感熱紙という紙(現在レシートで使用されている紙と同じもの)が使用されていました。
この感熱紙には、熱や紫外線、摩擦などに弱く印字が消えやすいという特徴があり、長期間の保管にはあまり適していません。

写真1のように、本資料群にも褪色した感熱紙が複数含まれており、現時点ではギリギリ判読が可能な状態だったため、デジタルカメラで撮影し、画像データとして保存する運びとなりました。

デジタルデータとして保管することによって、劣化によって資料の判読が難しくなった場合でも、資料に何が書かれていたのかを知ることができます。
撮影の際には、適度に採光できる場所にあるテーブルの上に中性紙を何枚か敷いて、折れなどがある場合はガラス棒を両方に置いて伸ばしながら、撮影者の影が映らないように撮影するのがポイントです。
以上、「VAWW-RAC旧蔵 『NHK番組改変事件裁判』関連資料」は、日本軍「慰安婦」問題をめぐるメディアや政治の在り方について知ることができ、さらにVAWW-NET Japan とVAWW-RACの刊行物(ミニコミ)から当時の力強い活動の様子を伺うことができる、たいへん興味深い資料群です。
少しでも興味?関心を持たれた方は、ぜひ共生社会研究センターまでご連絡ください。
参考文献
松井やより『裁かれた戦時性暴力—「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」とはなんであったか』白澤社、2001年。
VAWW-NETジャパン編『Q&A 女性国際戦犯法廷:「慰安婦」制度をどう裁いたか』明石書店、2002年。
VAWW-NETジャパン編『NHK番組改変と政治介入:女性国際戦犯法廷をめぐって何が起きたか』世識書店、2005年。
西野瑠美子、金富子、VAWW-NETジャパン編『消された裁き:NHK番組改変と政治介入事件』凱風社、2005年。
「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク、NHK番組改変裁判弁護団編『NHK番組改変裁判記録集:女性国際戦犯法廷』日本評論社、2010年。
中野敏男ほか編『「慰安婦」問題と未来への責任 : 日韓「合意」に抗して』大月書店、2017年。
金富子、小野沢あかね編『性暴力被害を聴くー「慰安婦」から現代の性搾取へ』岩波書店、2020年。
韓国挺身隊問題対策協議会?2000年女性国際戦犯法廷証言チーム編『記憶で書き直す歴史:「慰安婦」サバイバーの語りを聴く』(金富子、古橋綾編訳)岩波書店、2020年。

お問い合わせ

立教大学共生社会研究センター

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